患者中心の看護:ナラティブアプローチで質の高いケアを実現する
看護の現場で、患者さん一人ひとりの物語に耳を傾けたことはありますか?私たちは日々の業務に追われ、患者さんの背景や思いを深く理解する時間を持つのが難しいと感じているかもしれません。しかし、患者さんの人生や経験を理解することは、より良い看護を提供するために不可欠です。この記事では、看護におけるナラティブアプローチについて解説し、患者さんの物語を理解することで、より質の高いケアを提供する方法を探ります。
ナラティブアプローチとは?看護における意義
看護の現場において、患者さん一人ひとりの人生を深く理解し、質の高いケアを提供するためのアプローチとして、近年注目されているのが「ナラティブアプローチ」です。単に症状や検査結果といった客観的なデータだけでなく、患者さんの主観的な経験や物語(ナラティブ)に耳を傾けることで、より包括的で人間味あふれるケアを目指します。 この章では、ナラティブアプローチの基本概念と、看護におけるその意義について詳しく解説します。
ナラティブ(物語)の定義と重要性
「ナラティブ」とは、個人が自分自身の人生経験を語る物語のことです。それは、単なる出来事の羅列ではなく、個人の感情、価値観、解釈が織り込まれた、独特の視点から語られる人生のストーリーです。 患者さんのナラティブを理解することは、単に病気を治療するだけでなく、その人が抱える苦悩や希望、人生目標といった、より深いレベルでの理解に繋がります。 病気や治療という枠を超えて、患者さん全体像を把握することで、より適切なケアを提供できるのです。
看護におけるナラティブアプローチの目的
看護におけるナラティブアプローチの究極の目的は、患者さんの「well-being(幸福)」を促進することです。 そのためには、患者さんの物語を丁寧に聞き取り、その背景にある感情やニーズを理解することが不可欠です。 単に指示された医療行為を行うだけでなく、患者さんの個性を尊重し、主体的な意思決定を支援することで、患者さんのQOL(生活の質)の向上に貢献します。 ナラティブアプローチは、患者さんとの信頼関係構築を促進し、より効果的なコミュニケーションを可能にする基盤となります。
ナラティブアプローチを実践するメリット
ナラティブアプローチを実践することで、様々なメリットが得られます。 まず、患者さんとの深い信頼関係を築き、より良好なコミュニケーションを図ることが可能になります。 患者さんの話をじっくりと聴くことで、潜在的なニーズや懸念事項を早期に発見し、適切な対応をとることができます。 さらに、患者さんの自己決定権を尊重し、エンパワメント(自己効力感の向上)を支援することで、治療へのモチベーション向上や、より積極的な回復へと繋がる可能性があります。 チーム医療においても、患者さんの物語を共有することで、医療者間の連携強化、より包括的なケアの実現が期待できます。

ナラティブアプローチを実践するためのステップ
患者さんの物語を丁寧に聴き、理解し、より良い看護につなげるナラティブアプローチ。実践のためには、具体的なステップを踏むことが重要です。ここでは、効果的にナラティブアプローチを実践するためのステップを3つの段階に分けて解説します。
患者の話をじっくり聴くためのスキル
まず何よりも大切なのは、患者の話をじっくりと聴くことです。これは単に言葉を聞くだけでなく、患者の感情や背景、人生観を理解しようとする姿勢が求められます。そのためには、以下のスキルを磨くことが有効です。
- 共感的な傾聴:患者の言葉だけでなく、表情や仕草にも注意を払い、共感的に耳を傾けましょう。うなずいたり、相槌を打ったりするだけでなく、言葉にならない感情にも気づけるよう意識することが大切です。
- 非言語コミュニケーションへの注意:言葉以外のコミュニケーション、例えば、表情、身振り、姿勢、声のトーンなどに注意深く耳を傾けましょう。これらの非言語的なサインは、患者の感情や状態を理解する上で重要な手がかりとなります。
- オープンエンドクエスチョン:「どのように感じていますか?」「どんなことがありましたか?」といった、患者の自由な発言を促す質問を積極的に使いましょう。一方的な質問攻めにならないように注意が必要です。
- 沈黙の活用:沈黙は、患者が考えを整理したり、感情を表現したりする時間を与える貴重な機会です。沈黙を恐れることなく、適切な間合いを保ちましょう。
- リフレーミング:患者の発言を要約したり、別の言葉で言い換えたりすることで、理解度を確認し、患者の考えをより深く理解する助けとなります。
患者の物語を整理し、理解するための方法
患者の話を聴くだけでは不十分です。得られた情報を整理し、患者の物語を理解する必要があります。そのためには、以下の方法が役立ちます。
- 記録:患者の話を記録することで、後から詳細を確認したり、分析したりすることができます。ただし、プライバシー保護に十分注意し、倫理的な観点から適切な方法を選びましょう。
- 要約:患者の物語を簡潔に要約することで、重要な情報を整理し、全体像を把握することができます。患者の言葉遣いを尊重し、正確に要約することが大切です。
- テーマの抽出:患者の物語から、繰り返し出てくるキーワードやテーマを抽出し、患者の抱える問題やニーズを明確化します。例えば、不安、孤独、痛み、家族関係など。
- ストーリーマップの作成:患者の物語を時系列に沿って整理し、視覚的に表現することで、物語の流れを把握しやすくなります。これは、複雑な状況を理解するのに役立ちます。
共感と信頼関係を築くためのコミュニケーションスキル
ナラティブアプローチは、患者との信頼関係の上に成り立ちます。共感と信頼関係を築くためには、以下のコミュニケーションスキルが重要です。
- 共感の表明:「お気持ち、よく分かります」など、患者の感情を理解していることを伝える言葉かけを心がけましょう。ただし、安易な共感はかえって逆効果となる場合もあるため、注意が必要です。
- 積極的な姿勢:患者の話に真剣に向き合い、積極的に関わっていることを態度で示すことが大切です。アイコンタクトや適切なボディランゲージを意識しましょう。
- 自己開示(適切な範囲で):必要に応じて、自身の経験や感情を共有することで、患者との距離を縮めることができます。ただし、自己開示は適切な範囲で行い、患者のプライバシーに配慮することが重要です。
- 信頼関係の構築:継続的な関わりを通じて、患者との信頼関係を築きましょう。約束を守り、誠実な対応を心がけることが大切です。
これらのステップを踏むことで、患者さんの物語を深く理解し、より質の高い、患者中心の看護を提供することが可能になります。 実践を通して、自身のスキルを磨き、より効果的なナラティブケアを目指しましょう。
ナラティブアプローチを実践する上での注意点
患者さんの物語に寄り添うナラティブアプローチは、質の高い看護を実現するための強力なツールですが、実践にあたってはいくつかの注意点を理解しておくことが重要です。倫理的な配慮や文化的背景への理解を深め、患者さんのプライバシーを尊重しながら、効果的にナラティブアプローチを実践していきましょう。
プライバシー保護の重要性
患者さんの個人的な物語は、非常にデリケートな情報を含んでいます。ナラティブアプローチを実践する際には、常に患者さんのプライバシー保護を最優先に考えなければなりません。 聞き取った情報は、適切な範囲で、そして患者さんの同意を得た上でのみ使用し、秘密保持の徹底を心がけましょう。 記録についても、個人情報保護に関する法令や医療機関の規定を厳守することが不可欠です。 患者さんのプライバシーを侵害するような行為は、決して許されるものではありません。
倫理的な配慮
ナラティブアプローチは、患者さんとの深い信頼関係に基づいて成り立ちます。 そのため、医療従事者としての倫理的な責任を常に意識し、患者さんの自己決定権を尊重することが重要です。 患者さんが話したくないことには無理強いせず、彼らのペースに合わせて話を進めましょう。 また、自分の個人的な感情や価値観を押し付けることなく、客観的な立場で患者さんの物語に耳を傾けることが求められます。 倫理的なジレンマに直面した際には、同僚や上司と相談し、適切な対応を検討することが大切です。
文化的な違いへの配慮
日本は多様な文化を持つ国です。患者さんの文化や背景、宗教的な信念などを理解せずにナラティブアプローチを実践すると、誤解や反発を招く可能性があります。 患者さんの言葉や行動、非言語的なコミュニケーションを注意深く観察し、文化的な違いを踏まえた上で、適切なコミュニケーションを心がけることが重要です。 必要であれば、通訳や文化的な専門家の協力を得ることも検討しましょう。 文化的な感性を磨くことで、より深い共感と信頼関係を築くことができるでしょう。
情報共有と記録の適切性
ナラティブアプローチを通して得られた情報は、チーム医療において貴重な情報源となります。しかし、情報共有にあたっても、プライバシー保護と倫理的な配慮は不可欠です。 患者さんの同意を得た上で、必要な情報のみを共有し、その範囲を明確にしましょう。 記録についても、個人情報保護に配慮し、正確かつ客観的に記述することが重要です。 不適切な情報共有や記録は、患者さんの信頼を失うだけでなく、医療事故につながる可能性もあります。
これらの注意点を踏まえ、患者さんとの信頼関係を築きながら、ナラティブアプローチを安全かつ効果的に実践することで、より質の高い患者中心のケアを提供できるでしょう。

ナラティブアプローチによる成果と事例
ナラティブアプローチを実践することで、患者さん、医療従事者、そして医療機関全体に様々なポジティブな変化がもたらされます。単なる治療やケアを超え、患者さん一人ひとりの人生に寄り添うことで、より人間味あふれる、質の高い医療を実現できるのです。
患者満足度の向上
患者さんの物語を丁寧に聞き取り、理解することで、患者さんは「自分の思いが理解されている」と感じ、安心感を抱くことができます。 これは、医療提供者との信頼関係を構築する上で非常に重要な要素です。 自分の経験や感情を共有できる場が提供されることで、患者さんは治療への協調性も高まり、結果的に満足度向上に繋がります。 例えば、慢性疾患を抱える患者さんが、自身の病気とどのように向き合ってきたのか、その過程をじっくりと語り、医療従事者が共感をもって耳を傾けることで、患者さんは孤独感を軽減し、前向きな気持ちを取り戻せるでしょう。
看護の質の向上
患者さんの物語を理解することで、看護師は患者さんにとって本当に必要なケアは何なのかを深く理解することができます。 単なる症状の改善だけでなく、患者さんの生活背景や価値観、抱えている問題などを考慮した、より包括的なケアを提供できるようになるのです。例えば、高齢の患者さんが、自宅での生活を継続したいと願っている場合、その意思を尊重し、在宅医療との連携をスムーズに行うなど、患者さんのニーズに合わせたケアプランを立てることができます。これは、単なる医学的な処置だけでは得られない、質の高い看護と言えるでしょう。
チームワークの強化
ナラティブアプローチは、医療チーム全体での情報共有とコミュニケーションを促進します。患者さんの物語を共有することで、医師、看護師、理学療法士など、様々な職種の医療従事者が、患者さんの状態を多角的に理解し、連携して最適なケアを提供できるようになります。 チーム全体で患者さんの物語を共有し、それぞれの専門性を活かしながら、より効果的なケアを提供できる環境を作ることで、医療の質の向上だけでなく、医療従事者間の相互理解と協調性も深まります。例えば、患者さんの家族とのコミュニケーションにおいても、ナラティブアプローチは有効です。家族の思いを理解することで、より円滑なコミュニケーションが図れ、チーム全体で患者さんのケアを支えることができるようになります。
これらの成果は、具体的な事例を通してさらに明確になります。 今後、様々な事例を紹介することで、ナラティブアプローチの具体的な効果を実感していただけるよう努めてまいります。
ナラティブアプローチの継続的な学習と成長
ナラティブアプローチは、単なる知識やスキルの習得で終わるものではありません。患者さん一人ひとりの物語に真摯に向き合い続けるためには、継続的な学習と成長が不可欠です。日々の臨床現場での経験を通して学びを深め、より洗練されたナラティブケアを実践できるよう、自己研鑽を続けることが重要です。
関連書籍や文献の紹介
ナラティブアプローチに関する専門書や論文は、実践的なスキル向上に役立つ貴重な情報源です。最新の研究成果や臨床事例に触れることで、自身のナラティブケアの質を高めることができます。以下に、いくつか参考となる書籍や文献を紹介します。
- 書籍名1:著者名
- 書籍名2:著者名
- 論文名1:著者名、掲載誌名
- 論文名2:著者名、掲載誌名
これらの文献は、ナラティブアプローチの理論的背景から実践的な手法まで、幅広く網羅しています。定期的に文献を精読し、自身の臨床実践に活かすことを心がけましょう。また、インターネット上にも多くの情報が公開されていますので、信頼できるサイトを参考に、最新の知見を積極的に取り入れることも重要です。
研修やセミナーへの参加
ナラティブアプローチに関する研修やセミナーに参加することは、実践的なスキルを向上させる効果的な方法です。専門家による講義やワークショップを通して、実践的なスキルを習得し、他の医療従事者との交流を通して新たな視点を得ることができます。研修やセミナーの情報は、医療関連団体や学会のウェブサイトなどで確認できます。積極的に参加し、自身のスキルアップにつなげましょう。
経験を共有し、学び合うコミュニティの活用
ナラティブケアを実践する上で、経験を共有し、学び合うコミュニティの活用は非常に重要です。同じ志を持つ仲間と意見交換することで、自身の考えを深め、新たな気づきを得ることができます。オンラインコミュニティや、地域医療機関での勉強会など、様々なコミュニティを活用し、積極的に情報交換を行いましょう。互いに学び合い、成長することで、より質の高いナラティブケアの実践に繋がります。
継続的な学習は、ナラティブアプローチを実践する上で不可欠な要素です。常に学び続ける姿勢を持ち、患者さんとの信頼関係を構築し、より良いケアを提供できるよう努めましょう。自己研鑽を怠らず、ナラティブケアのスペシャリストを目指しましょう。

まとめ:患者さんの物語を理解し、より良い看護を目指して
この記事では、看護におけるナラティブアプローチについて、その基本概念から実践的なステップ、注意点、そして得られる成果までを多角的に解説しました。患者さんの物語に耳を傾け、共感に基づいたケアを提供することの重要性を改めて認識できたのではないでしょうか。
ナラティブアプローチは、単なる医療行為の改善にとどまりません。患者さんとの信頼関係を構築し、より人間味あふれる温かい看護を実現するための重要なツールです。患者さんの人生背景や価値観を理解することは、単に症状を治療するだけでなく、その人が抱える苦痛や不安を軽減し、心身両面からの回復を促すことに繋がります。
もちろん、ナラティブアプローチを実践するには、患者の話をじっくり聴くスキル、物語を整理・理解する能力、そして共感に基づいた効果的なコミュニケーションスキルなど、習得すべき要素が多くあります。プライバシー保護や倫理的な配慮を常に意識しながら、文化的な違いにも配慮した実践が求められます。
しかし、これらの努力によって得られるものは計り知れません。患者さんの満足度向上、看護の質の向上、そしてチームワークの強化といった、目に見える成果が期待できます。さらに、ナラティブアプローチを実践することで、看護師自身の自己成長や専門性の向上にも繋がります。日々の業務の中で、患者さんの物語に真剣に向き合うことで、看護の仕事に対する充実感ややりがいも大きく変わってくるでしょう。
この記事で学んだことを活かし、今日からすぐにでも実践できることから始めてみましょう。患者さんの物語に耳を傾け、共感し、そして寄り添うことで、より質の高い、患者中心の看護を実現できるはずです。継続的な学習と経験の共有を通して、共に学び、成長していきましょう。患者さんの物語を理解することは、より良い看護、そしてより良い未来への第一歩です。
監修者プロフィール

宮本 大輔
聖ルチア病院、福岡県立精神利用センター太宰府病院にて勤務
2017年 リアン訪問看護 設立
2022年 ネクストリンク訪問看護 設立
2024年 地域創生包括支援協会 理事
【資格】
・看護師
・相談支援専門員
・サービス等管理責任者

出利葉 貴弘
-医療・福祉分野の情報発信とDX推進を担う事業責任者
株式会社LIH 代表取締役
-Webマーケター/コンテンツディレクター
福岡を拠点に、これまで500社以上のWeb制作・マーケティング支援を行ってきました。2025年より「訪問看護テックナビ」の責任者として、医療・福祉分野の情報発信やIT導入を推進しています。
訪問看護で働く方々や、利用者・ご家族のために、「わかりやすく信頼できる情報」を届けることが私たちの役割です。本サイトを通じて、現場を支える力になれれば幸いです。
【経歴】
2015年 個人事業にてWebマーケティング業を開始
2016年 アイティーラボ株式会社(久留米市) 設立
2018年 株式会社LIH(福岡市) へ社名変更
2025年 株式会社テックナビ 取締役就任「訪問看護テックナビプロジェクト開始」
【保有スキル・資格など】
・Web制作(ディレクション・設計・ライティング)
・SEOコンサルティング(実務10年以上)
・AI×業務効率化コンサル