看護師が直面する倫理的ジレンマ:事例と解決策を解説
看護師として、患者さんの命と向き合い、日々様々な倫理的ジレンマに直面しますよね。この資料では、看護現場で起こりうる倫理的ジレンマとその解決策を分かりやすく解説します。
患者さんの尊厳と権利を尊重しながら、最適なケアを提供するための知識と判断力を身につけ、自信を持って看護を実践できるようになりましょう。

看護現場における倫理的ジレンマ:事例紹介
看護師として、日々の業務の中で、倫理的ジレンマに直面することは決して珍しいことではありません。患者さんの尊厳を守り、最善のケアを提供しようとする中で、様々な葛藤や困難に遭遇します。この章では、看護現場で実際に起こりうる倫理的ジレンマの具体的な事例を紹介し、その背景にある問題点について掘り下げていきます。
意思決定の困難さ:治療の継続・中止
患者さんの状態や意向、家族の思いなど、様々な要素が複雑に絡み合い、治療の継続や中止に関する意思決定は、看護師にとって大きな倫理的ジレンマとなります。
延命治療に関する患者の意思尊重と医療チームの葛藤
終末期医療において、延命治療の是非は、患者さん本人の意思、家族の意向、そして医療チームの考え方によって、様々な対立が生じる可能性があります。患者さんが、自身の尊厳を保ちながら最期を迎えたいと望む一方で、医療チームは、患者さんの生命を最大限に維持しようとする間で葛藤が生じることがあります。
- 事例: 末期がんの患者さんが、積極的な治療を拒否し、自宅での療養を希望しているとします。
しかし、家族は、患者さんに少しでも長く生きてほしいと願い、積極的な治療を継続することを強く望んでいます。
この場合、看護師は、患者さんの意思を尊重し、家族の思いにも寄り添いながら、最適なケアを提供するために、倫理的なジレンマに直面します。 - 問題点:
- 患者さんの自己決定権と、家族の意向の対立
- 医療チーム内での意見の相違
- 患者さんのQOL(生活の質)と、延命治療のバランス
- 解決へのヒント:
- 患者さんの意思を十分に確認し、記録する。
- 家族との丁寧なコミュニケーションを通じて、理解を深める。
- 医療チーム内で、患者さんにとって最善の選択肢について協議する。
- 倫理委員会や専門家への相談も検討する。
このように、治療の継続・中止に関する意思決定は、患者さん、家族、医療チームのそれぞれの思いが交錯し、非常に複雑な問題です。看護師は、これらの問題を解決するために、倫理的な知識と判断力、そして関係者との良好なコミュニケーション能力が求められます。
倫理的ジレンマへの効果的なアプローチ
看護の現場では、倫理的な問題に直面することは避けられません。しかし、恐れることなく、適切なアプローチでこれらの問題に対応することが可能です。この章では、倫理的ジレンマに対する効果的なアプローチについて掘り下げていきます。
情報収集と倫理的枠組みの理解
倫理的ジレンマに直面した際、まず最初に行うべきは、問題に関する情報を徹底的に収集することです。患者さんの病状、治療の選択肢、予後、そして患者さんの価値観や意向など、多角的な視点から情報を集めましょう。 情報収集と並行して、倫理的な枠組みを理解することも重要です。
医療倫理には、インフォームドコンセント、自己決定権の尊重、中立性の原則など、いくつかの重要な原則があります。これらの原則を理解し、問題にどのように適用できるかを検討することで、より客観的な判断が可能になります。
- インフォームドコンセント: 患者さんが治療に関する十分な情報を得た上で、自らの意思で治療に同意すること。
- 自己決定権の尊重: 患者さんが自分の人生や健康に関する決定を自ら行う権利を尊重すること。
- 中立性の原則: 医療従事者は、患者さんの価値観や信念を尊重し、公平な立場でケアを提供すること。
関係者とのコミュニケーションと合意形成
情報収集と倫理的枠組みの理解を深めたら、次は関係者とのコミュニケーションを図り、合意形成を目指します。 患者さん本人、ご家族、医療チーム(医師、看護師、ソーシャルワーカーなど)の間で、率直な意見交換を行いましょう。それぞれの立場や価値観を尊重し、互いの理解を深めることが重要です。 円滑なコミュニケーションのためには、以下の点に留意しましょう。
- 傾聴: 相手の話を注意深く聞き、理解しようと努める。
- 共感: 相手の気持ちに寄り添い、共感的な態度を示す。
- 明確な説明: 専門用語を避け、分かりやすい言葉で説明する。
- 誠実な対応: 正直で誠実な態度で接する。
専門家への相談と支援
倫理的ジレンマは、一人で抱え込まず、専門家へ相談することも有効な手段です。 病院によっては、倫理委員会が設置されており、倫理的な問題に関する相談やアドバイスを提供しています。
また、倫理コンサルタントと呼ばれる専門家も存在します。彼らは、倫理的な問題に対する専門的な知識と経験を持ち、客観的な視点からアドバイスをしてくれます。 専門家への相談を通じて、新たな視点や解決策を見つけ出すことができるかもしれません。
また、他の医療従事者と協力し、チームとして問題に取り組むことで、より良いケアを提供するための道が開けます。

倫理的ジレンマを乗り越えるための思考法
看護師として、日々の業務で直面する倫理的ジレンマは、まるで複雑なパズルを解くようなものです。患者さんの尊厳を守り、最善のケアを提供するためには、単なる知識だけではなく、多角的な視点と深い倫理的思考が不可欠です。ここでは、倫理的ジレンマを乗り越えるための思考法について、具体的なステップと共にご紹介しましょう。
多角的な視点からの問題分析
倫理的ジレンマに直面した際、まず行うべきは、問題の本質を多角的に分析することです。
- 問題の全体像を把握する:
- どのような状況でジレンマが発生しているのか、事実関係を正確に把握します。
- 患者さん、ご家族、医療チームなど、関係者それぞれの視点から状況を理解します。
- 倫理的原則を特定する:
- 患者さんの自己決定権、尊厳、公平性など、どのような倫理的原則が関わっているのかを明確にします。
- 複数の倫理的原則が対立している場合、それぞれの重要性を比較検討します。
- 影響を予測する:
- それぞれの選択肢が、患者さんや関係者にどのような影響を与えるのかを予測します。
- 短期的・長期的な影響、心理的・肉体的な影響など、多角的に検討します。
自分の価値観と倫理原則の整理
倫理的ジレンマへの対応は、自身の価値観と倫理原則に基づいた判断が求められます。
- 自己理解を深める:
- 自分自身の価値観や信念を明確にし、何が大切なのかを理解します。
- 過去の経験を振り返り、どのような価値観に基づいて行動してきたかを分析します。
- 倫理原則を学ぶ:
- 看護倫理の基本的な原則(自律尊重、善行、無危害、正義など)を理解します。
- 倫理綱領や関連する法律・規則を学び、知識を深めます。
- 価値観と倫理原則を照らし合わせる:
- 自分の価値観と倫理原則がどのように関連しているのかを整理します。
- 倫理的ジレンマに直面した際、自分の価値観と倫理原則に基づいて判断できるよう、準備をします。
倫理的思考のプロセスと実践
倫理的思考は、実践を通して磨かれていくものです。
- 情報収集と分析:
- 関連する情報(患者さんの病状、治療法、予後など)を収集し、客観的に分析します。
- 倫理的ジレンマに関する文献や事例を参考に、知識を深めます。
- 選択肢の検討:
- 可能な選択肢を複数洗い出し、それぞれのメリットとデメリットを比較検討します。
- 倫理的原則に照らし合わせ、どの選択肢が最も望ましいかを検討します。
- 意思決定と行動:
- 関係者と十分に話し合い、合意形成を図りながら、最終的な意思決定を行います。
- 決定に基づき、責任を持って行動します。
- 振り返りと学び:
- 意思決定と行動の結果を振り返り、良かった点や改善点を評価します。
- 倫理的ジレンマへの対応を通して得られた学びを、今後の看護実践に活かします。
ロールプレイング:実践的な倫理的判断力の向上
倫理的判断力を高めるためには、実践的なトレーニングが不可欠です。
- ロールプレイングの実施:
- 倫理的ジレンマをテーマにしたロールプレイングを行い、様々な状況をシミュレーションします。
- 患者役、家族役、医療チームの一員など、様々な役割を演じ、多角的な視点を養います。
- フィードバックの活用:
- ロールプレイング後、参加者同士でフィードバックを行い、意見交換をします。
- 客観的な視点からのアドバイスを受け、自身の判断力やコミュニケーションスキルを向上させます。
- 継続的な実践:
- 定期的にロールプレイングを行い、実践的な倫理的判断力を継続的に向上させます。
- 様々な倫理的ジレンマに対応できるよう、経験を積み重ねます。
倫理的ジレンマへの対応は、一朝一夕にできるものではありません。
しかし、多角的な視点、自己理解、倫理的思考のプロセスを意識し、実践を重ねることで、必ず看護師としての成長に繋がります。患者さんの尊厳を守り、より良いケアを提供するために、倫理的思考力を磨き続けましょう。
倫理的看護を実践するための具体的なステップ
看護師として、患者さんのケアを提供する上で、倫理的な問題に直面することは避けられません。
しかし、適切な知識と手順を踏むことで、これらの問題を乗り越え、患者さんにとって最善のケアを提供することが可能です。ここでは、倫理的看護を実践するための具体的なステップを、一つずつ見ていきましょう。
患者の権利と自己決定権の尊重
患者さんの権利を尊重することは、倫理的看護の基本です。具体的には、患者さんの自己決定権を最大限に尊重し、インフォームドコンセントを徹底することが重要です。患者さんが自身の治療やケアについて、十分な情報を得た上で、自らの意思で決定できるように支援しましょう。
- インフォームドコンセントの徹底:治療や検査の内容、リスク、代替案などを分かりやすく説明し、患者さんが理解した上で同意を得る。
- 自己決定の支援:患者さんの価値観や希望を尊重し、意思決定を支援するための情報提供や相談を行う。
- 秘密保持:患者さんのプライバシーを守り、個人情報を適切に管理する。
患者と家族との信頼関係の構築
患者さんとその家族との間に信頼関係を築くことは、良好なコミュニケーションを促し、より良いケアを提供するために不可欠です。信頼関係は、患者さんの安心感と満足度を高め、治療への積極的な参加を促します。そのためには、誠実な態度で接し、患者さんの話を注意深く聞き、共感を示すことが大切です。
- コミュニケーションの重視:患者さんの言葉に耳を傾け、感情を理解し、共感的な対応を心がける。
- 情報共有:患者さんの状態や治療に関する情報を、分かりやすく説明し、共有する。
- 家族への配慮:家族の不安や疑問に寄り添い、サポート体制を整える。
医療チームとの連携と情報共有
倫理的な問題は、一人で抱え込まず、医療チーム全体で共有し、協力して解決していくことが重要です。チーム内での情報共有を密にし、多職種連携を強化することで、より質の高いケアを提供できます。定期的なカンファレンスやミーティングを通じて、患者さんの状況や倫理的な問題を共有し、チーム全体で最善の解決策を検討しましょう。
- チーム内での情報共有:患者さんの状態や倫理的な問題を、チーム全体で共有する。
- 多職種連携の強化:医師、薬剤師、ソーシャルワーカーなど、多職種との連携を密にする。
- 倫理委員会への相談:倫理的な問題に直面した場合は、倫理委員会に相談し、助言を得る。
これらのステップを踏むことで、看護師は倫理的なジレンマに適切に対応し、患者さんの尊厳を守りながら、最善のケアを提供することができます。倫理的看護を実践することは、患者さんだけでなく、看護師自身の成長にもつながり、よりやりがいのある仕事へと繋がるでしょう。

倫理的ジレンマと向き合うための継続的な学習
看護師として、倫理的ジレンマに常に向き合い、患者さんの最善のケアを追求するには、継続的な学習が不可欠です。日々の臨床経験を通して、倫理的な問題に直面し、その解決策を模索する中で、学びを深めていくことが大切です。
関連文献・事例研究の活用
倫理的ジレンマに関する知識を深めるためには、関連文献や事例研究を積極的に活用しましょう。倫理学や看護倫理に関する書籍や論文を読むことで、倫理的思考の基盤を築くことができます。また、実際に起きた事例を研究することで、様々な状況における倫理的判断のプロセスを学ぶことができます。
- 書籍や論文の購読:倫理学や看護倫理に関する専門書や学術論文を読み、知識を深めましょう。
- 事例研究:倫理的ジレンマに関する事例を研究し、多角的な視点から問題を分析する力を養いましょう。
- 情報収集:倫理的問題に関する最新の情報や動向を把握するために、定期的に情報収集を行いましょう。
倫理委員会や専門家との連携
倫理的ジレンマに直面した際は、一人で抱え込まず、倫理委員会や専門家との連携を図りましょう。倫理委員会は、倫理的な問題について多角的な視点から検討し、適切なアドバイスを提供してくれます。また、倫理的な問題に詳しい専門家から助言を受けることも、問題解決の一助となります。
- 倫理委員会の活用:所属する医療機関の倫理委員会に相談し、意見を求めましょう。
- 専門家への相談:倫理的問題に詳しい専門家(倫理学者、看護倫理コンサルタントなど)に相談し、アドバイスを受けましょう。
- 連携:倫理委員会や専門家との連携を通じて、多角的な視点から問題解決に取り組みましょう。
自己研鑽と倫理感の向上
倫理的ジレンマに対応するためには、自己研鑽を重ね、倫理感を高めることが重要です。自己省察を通じて、自身の価値観や倫理観を深く理解し、日々の看護実践に活かしましょう。また、倫理に関する研修会やセミナーに参加し、知識やスキルを向上させることも有効です。
- 自己省察:自身の価値観や倫理観を理解し、日々の看護実践における倫理的判断の根拠を明確にしましょう。
- 研修会やセミナーへの参加:倫理に関する研修会やセミナーに参加し、知識やスキルを向上させましょう。
- 継続的な学び:倫理的ジレンマに関する情報を収集し、常に学び続ける姿勢を持ちましょう。
これらの活動を通じて、倫理的ジレンマに対する対応能力を高め、患者さんにとって最善のケアを提供できるよう、努力を重ねていきましょう。
まとめ:倫理的な看護実践に向けて
この記事では、看護師の皆様が直面する倫理的ジレンマについて、その種類、解決策、そして実践的なスキルを習得するための具体的なステップを解説してきました。
倫理的な看護を実践することは、患者さんの尊厳を守り、より質の高いケアを提供するために不可欠です。ここで、これまでの内容を振り返り、倫理的な看護実践に向けて、私たちがどのように取り組むべきかを改めて確認しましょう。
倫理的ジレンマへの対応能力の向上
倫理的ジレンマに適切に対応するためには、まず、それらを「認識する力」が重要です。目の前の問題が倫理的な側面を含んでいるのかを敏感に察知し、多角的な視点から問題の本質を見抜く必要があります。次に、「情報収集力」です。
問題解決のためには、関連する情報(患者さんの病状、治療方針、倫理原則など)を正確に集めることが不可欠です。そして、「判断力」と「決断力」を磨き、倫理的ジレンマに直面した際に、最も倫理的に正しいと思われる選択を迅速に行えるようにしましょう。
患者中心のケア提供
患者さん中心のケアとは、患者さんの価値観、意向、ニーズを最優先に考えたケアのことです。そのためには、患者さんとのコミュニケーションを密にし、信頼関係を築くことが不可欠です。
インフォームドコンセントを徹底し、患者さんが自分の治療方針を理解し、自ら決定できるよう支援しましょう。また、患者さんだけでなく、ご家族の思いにも寄り添い、患者さんと家族が納得できるケアを提供することも重要です。
倫理的な看護実践の重要性
倫理的な看護実践は、単にルールを守ること以上の意味を持ちます。それは、患者さんの尊厳を守り、人間としての尊厳を尊重することです。倫理的な看護を実践することで、患者さんは安心して治療に臨むことができ、より良い療養生活を送ることができます。
また、看護師自身も、倫理的な葛藤を乗り越え、自己肯定感と職業的な満足感を得ることができます。倫理的な看護は、患者さん、看護師、そして医療チーム全体のwell-being(幸福)に貢献するのです。
倫理的ジレンマは、看護師にとって避けて通れない課題です。しかし、恐れることなく、倫理的な知識とスキルを磨き、患者さんのために最善を尽くす姿勢があれば、必ず乗り越えることができます。この資料が、皆様の倫理的な看護実践の一助となることを願っています。
監修者プロフィール

宮本 大輔
聖ルチア病院、福岡県立精神利用センター太宰府病院にて勤務
2017年 リアン訪問看護 設立
2022年 ネクストリンク訪問看護 設立
2024年 地域創生包括支援協会 理事
【資格】
・看護師
・相談支援専門員
・サービス等管理責任者

出利葉 貴弘
-医療・福祉分野の情報発信とDX推進を担う事業責任者
株式会社LIH 代表取締役
-Webマーケター/コンテンツディレクター
福岡を拠点に、これまで500社以上のWeb制作・マーケティング支援を行ってきました。2025年より「訪問看護テックナビ」の責任者として、医療・福祉分野の情報発信やIT導入を推進しています。
訪問看護で働く方々や、利用者・ご家族のために、「わかりやすく信頼できる情報」を届けることが私たちの役割です。本サイトを通じて、現場を支える力になれれば幸いです。
【経歴】
2015年 個人事業にてWebマーケティング業を開始
2016年 アイティーラボ株式会社(久留米市) 設立
2018年 株式会社LIH(福岡市) へ社名変更
2025年 株式会社テックナビ 取締役就任「訪問看護テックナビプロジェクト開始」
【保有スキル・資格など】
・Web制作(ディレクション・設計・ライティング)
・SEOコンサルティング(実務10年以上)
・AI×業務効率化コンサル